相続財産の把握

相続が発生したときは、亡くなられた方(被相続人)が生前に保有していた財産(相続財産)を明らかにする必要があります。

相続財産は金融資産や不動産などのプラスのものだけではなく、金融機関からの借入金や税金の滞納金などのマイナスのものも含まれます。

相続放棄の判断をする場合は手続きに期限があるため、早期に相続財産を確定させる必要あります。

相続財産調査の目的

相続財産を確定させる目的は3つあります。
①どの財産を誰が引き継ぐかを決める遺産分割協議書の作成
②マイナス財産が多い場合の相続放棄の判断
③正確な相続税の申告

①どの財産を誰が引き継ぐかを決める遺産分割協議書の作成

遺言書がない場合または、遺言書があっても一部の財産のみの場合には、法定相続人全員で相続財産をどのように分けるかを話し合い、遺産分割協議書を作成します。その為には、亡くなられた方のすべての財産を明らかにしておく必要があります。

マイナス財産が多い場合の相続放棄の判断

すべての財産を明らかにした結果、マイナスの財産がプラスより多い場合は相続放棄をおすすめしますが、相続放棄をする場合は「相続があったことを知ったとき(通常は被相続人の死亡日)から3か月以内に家庭裁判所で手続き」をする必要があり、財産の調査・確定はその期限前に終わらせなければなりません

③正確な相続税の申告

相続財産の価値の合計が、相続税の「基礎控除」の金額を上回ると相続税がかかります。税申告が必要か不要かを判断する為には、全ての財産を調査・確定する必要があります。

また、相続税の申告納付は「相続があったことを知ったとき(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10か月以内」という期限があります。申告期限後に他に財産が見つかったり、財産の評価に誤りがあった場合は、ペナルティの超過税を課せられる場合があります。期限内の申告の為にも、正しく財産を確定する必要があります。

相続財産の調査

被相続人の相続財産の多くは「預貯金」「不動産」「株式等の有価証券」が大半だと思います。まずは、故人の自宅を中心に、以下のような手がかりとなる書類や資料を探してみると良いと思います。

金融資産  現金・預貯金、有価証券(株式、投資信託等)、※生命保険、退職金など
プラスの財産  不動産宅地(貸地含む)、家屋(貸家含む)、借地権、農地、山林など
その他 自動車、金、ゴルフ会員権・リゾート会員権、貴金属・宝石、美術品、著作権・商標権など

生命保険の保険金受取人が相続人の場合は、相続人の財産となるため、相続財産には含まれません。ただし、相続税の算出にあたっては、「みなし相続財産」として、一定額以上は相続税の課税対象になります。

マイナスの財産 住宅ローン等の金融機関からの借入金、クレジットカードの未決済分、
未払いの税金や医療・入院費、保証債務(連帯保証)など

1.預貯金、有価証券などの金融資産の調査

一般的に手がかりとなる書類や資料は次のとおりです。

預貯金通帳、キャッシュカード、郵便物、金融機関からの粗品(タオルや文具品)など
有価証券 証券会社からの取引残高報告書や配当金のお知らせ等郵便物、株券
生命保険保険証書、生命保険料控除証明書、保険会社からのお知らせ等の郵便物

最近はネット銀行やネット証券のようなペーパーレスの口座所有の方も多くなりました。その場合は取引口座にログインする為のIDやパスワードが必要になります。ログインする為の必要情報が書かれた手帳や書類などを探してみてください。

取引先がわからない場合(銀行・証券・生保会社を探す)

預貯金口座の場合】

上に記載した書類や資料が見つからなかったとしても、例えば、水道光熱費を口座振替にしていれば、電気・ガス会社へ、年金受給者であれば、年金事務所へ取引口座を確認することが出来るかもしれません。
それでもわからない場合は、思い当たる金融機関へ直接確認することもできます。その場合、まずは故人の自宅最寄りの金融機関から確認してみてください。

金融機関へ口座照会する場合には、窓口で被相続人や相続人(照会者)の戸籍謄本や身分証明となる資料の提出を求められます。必要書類については、金融機関へ直接ご確認ください。

預貯金のある金融機関へ問い合わせする際、口座所有者が亡くなったことを伝えると口座凍結されます。万が一、口座引き落とし支払いや家賃収入などの入金がある場合、出入金が出来なくなりますので注意が必要です。

2019年7月の法改正により、「預貯金の払戻し制度」が創設されました。これにより、遺産分割協議の前でも故人の口座より一定額の預金払い戻しができるようになりました。払い戻せる金額には限度があり、預貯金残高や相続人に数によって変わりますので、詳細は専門家へご相談ください。

有価証券の場合】

一昔前は紙の株券が一般的でしたが、2009年以降の株取引はすべて電子化され、証券会社の口座にて管理されているため、紙の株券はありません。故人の株取引の有無や、取引していた証券会社かわからない、と言った場合は、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に問い合わせる方法があります。「ほふり」に対して情報開示請求を行うことで、故人がどこの証券会社に口座を持っているかを明らかにすることができます。

ほふりへの調査依頼でわかることは、故人が保有している株券と、それを保管している証券会社です。口座がある証券会社が分かったら、その会社へ連絡して具体的な相続手続きを進めます。

証券保管振替機構への照会方法についてはこちらをご参照ください⇒証券保管振替機構「登録済加入者情報の開示請求」

株式等の有価証券は調査漏れしやすい財産です。万が一、後から株券が見つかった場合、遺産分割協議のやり直しや、相続税の追徴課税を受けたりすることもあります。遺産分割協議の前にしっかり調査しておくことが大切です。

生命保険の場合】

生命保険契約については、2021年7月より生命保険協会が窓口となり一括照会が可能になりました。どこの保険会社かわからないはもちろん、そもそも保険契約があるのかどうかもわからないなどの照会も可能です。
ただし、照会は「保険契約の有無」のみになりますので、具体的な契約内容や保険金・給付金の請求手続きは直接契約している保険会社へ問い合わせの必要があります。
照会方法についてはこちらをご参照ください⇒「生命保険契約照会制度のご案内」生命保険協会

2.所有不動産の調査

一般的に手がかりとなる書類や資料は次のとおりです。

権利証、売買契約書、登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税納税通知書など

※不動産を売買により取得していた場合は、権利証、売買契約書、登記事項証明書の3点は一緒に保管されていることが多いです。
※固定資産税納税通知書は毎年4月~6月ごろ、市区町村役所より郵送されます。

上に記載した書類がある場合は、書類に記載されている地番や家屋番号を頼りに法務局で登記事項証明書を取得し、最新の権利関係を確認します。
登記事項証明書はオンラインでの交付請求が可能です。ご自宅や勤務先のパソコンから請求をし、郵送または最寄りの登記所や法務局証明センターの窓口での受け取りになります。

所有不動産がわからない場合(名寄帳の利用)

故人が山林や自宅以外にもいくつか不動産を所有していた、他の誰かと共有していたがどこにあるかわからない、と言った場合、役所で取りまとめている「名寄帳(なよせちょう)」という、その自治体にある不動産の所有者ごとの一覧表があり、これを取り寄せて調査する方法があります。この名寄帳には、固定資産税納税通知書には記載されていない非課税(主に私道)や免税物件も記載されているので、故人が所有していた不動産すべてを確認することができます。(固定資産税納税通知書は課税物件のみの表記)
ただし、不動産があちこちの市区町村に存在する場合は、各市区町村の名寄帳を確認する必要があります。
※東京都の場合、23区内に所在するものは最寄りの都税事務所より一括取寄せが可能です。

3.負債(借金)の調査

一般的に手がかりとなる書類や資料は次のとおりです。

カード会社の支払明細書、金融機関とのローン契約書、消費者金融のカード、税金の催促状、
借用書、不動産登記事項証明書(住宅ローンや不動産担保による抵当権の記載有無)等

住宅ローンは、ローン契約の際に団体信用生命保険に加入することが一般的です。加入していれば、ローン債務者が死亡した際にはローン残債を保険金によって清算される為、負債として残ることはありません。
ただし、住宅ローンの残債が消えても、住宅に設定された抵当権が自動的に消えるわけではないので、抵当権抹消の手続きを行う必要があります。

故人の自宅に金融機関やカード会社の返済明細や督促状、預金通帳に引き落としの履歴がないか確認してみましょう。借入状況の確認は、直接貸付している会社へ確認します。
また、不動産を担保に借金をしていた場合、不動産登記事項証明書に抵当権や根抵当権、質権などの記載がある可能性があります。最新の登記事項証明書を取得し、確認する必要があります。

最初に説明したとおり、相続放棄の手続きは「相続があったことを知ったとき(通常は被相続人の死亡日)から3か月以内」となっており、万が一、3か月の期限後の借金発覚は、相続人に返済義務が生じることになります。

「後になって、多額の借金が見つかった」ということにならないよう、相続の発生後できるだけ早く負債状況も確認することが大切です。

借金の有無がわからない場合(個人信用情報の開示請求

銀行や信金などの銀行系、クレジット会社、消費者金融会社等からの借入の場合、以下の信用情報機関において借り入れ情報を管理しています。相続人であれば、信用情報機関へ情報の開示請求ができますので、確認してみることをおすすめします。

開示請求の方法については各機関へ直接お問い合わせください。

   機関名 可能調査内容開示方法
株式会社日本信用情報機構
(JICC)
主に消費者金融会社、クレジット会社、リース会社からの借入状況郵送
全国銀行個人信用情報センター(KSC)銀行からの借入状況郵送
インターネット  
株式会社シーアイシー(CIC)主に信販会社、クレジット会社、百貨店や携帯電話会社からの借入状況窓口、郵送
インターネット

相続財産の調査に困ったら

相続財産の調査について説明してきましたが、財産を確定させることは意外に時間、労力のかかる作業になります。「調査する時間がない」や「どう調べて良いかわからない」など、負担を感じる場合は専門家に依頼することをおすすめします。

いずみ相続相談室でも、預貯金口座や所有不動産、個人信用情報機関への調査、財産目録作成などの相続財産確定のサポートをしております。お気軽にご相談ください。