相続財産の分け方を決める遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、相続人を確定させることは相続手続きの初期の重要なプロセスです。
相続人が誰なのか(相続人の範囲)は民法に規定されていますが、離婚・再婚、事実婚、生涯独身、子のない夫婦、養子、婚外子などさまざまな個別事情により容易に確定できないケースもあります。
本記事では、主に相続人の確定について説明します。
相続人の範囲と相続割合
民法によって決まる相続人を「法定相続人」といい、亡くなられた方(被相続人)の財産を相続する権利を持ちます。
民法では次のとおり相続をする順位が定められ、先順位の相続人がいない場合に後順位の人が相続人となります。
亡くなられた方の配偶者は、次の順位者と共に常に相続人となります。
第1順位:子・孫ら
相続発生の時点で子が故人の場合は孫、さらに孫が故人の場合はひ孫(代襲、再代襲)。養子も実子と同じ相続権を有します。
相続分(割合)は、配偶者が1/2、子が1/2になります。
子が2人以上いる場合は、1/2を更に等分します。
法律上の婚姻関係のなかった男女間に生まれた子(非嫡出子)も、婚姻関係のあった場合(嫡出子)と同等の相続分になります。(平成25年法改正)
第2順位:直系尊属(子・孫らがいない場合)
父母。相続発生の時点で父母が故人の場合は祖父母。養親も実親と同じ相続権を有します。
相続分(割合)は、配偶者が2/3、直系尊属が1/3になります。
第3順位:兄弟姉妹(子・孫ら、直系尊属がいない場合)
相続発生の時点で兄弟姉妹が故人の場合は、兄弟姉妹の子供(姪、甥)(代襲相続)。
相続分(割合)は、配偶者3/4、兄弟姉妹が1/4になります。
異父母兄弟など血の繋がりが半分の場合は、父母とも共通の兄弟姉妹の割合の更に1/2になります。
【被相続人に配偶者、子供がなかった場合の相続一例】
まず父母が100%の相続分を有します。もし、父母は故人で祖父母が存命の場合、相続権は祖父母へ移行します。
父母、祖父母共に故人の場合は兄弟姉妹へ権利が移行し、兄弟姉妹に故人がいれば、その子供(姪・甥)が相続権を有します。(代襲相続)
【相続人の欠格と廃除】
被相続人や先順位・同順位相続人を殺害した者や、遺言書を偽造・隠匿した者など、民法が定める欠格事由に該当する者は自動的に相続権を失う「相続人の欠格」となり、相続人ではなくなります。
被相続人が生前に虐待や侮辱を受けたなどの理由で、相続人の本来有する相続権を奪う「相続人の廃除」という制度があります。廃除とするには、家庭裁判所へ審査申し立てをし、承認が必要になります。
被相続人の戸籍(除籍)謄本を集める
法定相続人を確定するには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本が必要になります。
すべての戸籍謄本等が必要になる理由は、戸籍は転籍や法改正、婚姻などにより都度新しく作られるため、被相続人のすべての法定相続人を調査するには古い戸籍も調査する必要があるからです。
収集の方法としては、まず死亡時の本籍地で戸籍謄本(除籍謄本)を取得します。その謄本には、謄本を作成した理由(婚姻や転籍など)とその前の戸籍の所在地が記載されています。謄本の取得はその当時の本籍地である市区町村役場からになるので、遠方の場合は郵送で請求することもできます。
被相続人の出生時の謄本まで順次さかのぼって取得していきます。
【戸籍謄本を請求できる者】
戸籍謄本は、個人情報保護の観点から請求できる者が法律で制限されています。相続であれば、法定相続人になる配偶者や子供、孫、父母、祖父母らになります。(伯叔父母や配偶者の父母・祖父母はできない)
又は、委任状をもって代理人による請求も可能です。
【相続人が兄弟姉妹の場合】
被相続人には子供がなく、兄弟姉妹が相続権を有する場合、被相続人のすべての戸籍(除籍)謄本に加え、被相続人の父母の出生までさかのぼった戸籍(除籍)謄本が必要になります。これは他に兄弟姉妹がいないかを確認するためです。
法定相続人の確定
収集した戸籍謄本に記載されている被相続人との関係から、法定相続人を確定します。
法定相続人がいない場合
被相続人がひとりっ子などで、法定相続人にあたる人が存在しない場合は、遺言書がなければ財産は国庫に帰属することになります。(伯叔父母・いとこに相続権はない)
ただし、被相続人と特別親しい関係にあった人、例えば内縁の配偶者や被相続人の療養看護につとめた人などにも遺産を与えることができる「特別縁故者」と制度があります。
特別縁故者と認められた場合、遺産の全部または一部を受け取れる可能性があります。
「特別縁故者」と認められる為には、家庭裁判所で「相続財産管理人の選任」と「特別縁故者への財産分与申立」の手続きが必要になります。
法定相続情報一覧図の作成
法定相続人が確定したら、「法定相続情報一覧図」を作成しておくと、後に行う不動産や金融機関の名義変更、相続税の申告等手続きの際に大変便利です。
法定相続情報一覧図 とは、家系図のように被相続人と相続人との関係をわかりやすく図式化したものです。収集した戸籍(除籍)謄本をもとに一覧図を作成して法務局の認証を受ければ、公的な証明として相続手続きで使うことができます。
これまで、不動産や金融機関の名義変更手続きの際には、取引先ごとに被相続人の戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本を一式として提出する必要がありました。そのため被相続人の戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本も複数部取寄せる必要があり、謄本が束のようになることはもちろん、取得の手間や費用もかかるので、相続人の負担になっていました。また名義変更を受け付ける金融機関や法務局においても、提出された戸籍謄本一式から相続関係を一から確認しなければならず、手続き完了まで時間がかかる状況が負担となっていました。
そのような負担の軽減を目的として、2017年(平成29年)5月から「法定相続情報証明制度」が始まりました。
法定相続情報一覧図の認証は無料です。また、一度認証を受けると原本は法務局で5年間保管され、その期間であれば再交付も可能です。
法定相続情報一覧図の作成方法や法務局への申し出方法についてはこちらをご参照ください。
法定相続情報証明制度について(法務局)
戸籍謄本の収集が難しいと感じたら
いざ収集を始めてみたら、途中で戦災や天災、役所の保管期限切れなどにより戸籍が消失していた・・や、転籍が多いことが判明し、収集に手間と時間がかかって大変・・と言う話もよく聞きます。
相続人自らで収集が難しいと感じましたら、専門家に依頼することも一案です。
いずみ相続相談室では、戸籍謄本等の収集はもちろん、収集後の法定相続情報一覧図の作成も行っております。
また、法定相続人の確定に係わるご不明な点に回答、助言をしております。お気軽にお問い合わせください。